モーター効率とポンプ効率

ユーザー様より”御社のポンプの効率はいくつですか?” という質問を受けることがあります。

ポンプ効率を知りたいのは

①マイナス帯の冷凍機などで媒体を循環させる場合にモーターから媒体への入熱が気になる

②省エネをアピールしたい製品なので出来る限りポンプの消費電力を抑えたい

このような背景があります。

ポンプの効率と一口で言ってもそう単純ではありません。ポンプは大きく分けてモーターとポンプヘッドの2つの構成部品からできている機械です。

つまりポンプの効率は 

①モーター効率 

②ポンプ(ポンプヘッド)効率 

③ポンプ全体(モーター+ヘッド)の効率 

に分けて出すことになります。

 

 

①通常の誘導モーター・マグネットポンプの場合

誘導モーターマグネットポンプの一覧

①P1(W:入力電力)→P2(W:ポンプヘッド軸動力)

こちらは通常の三相誘導モーターのマグネットポンプの場合です。こちらのタイプは商用電源(200Vや400V)で稼動するポンプです。上の写真のP1というのはこの商用電源からの入力電力(W)でこのP1の電力を元にモーターとポンプを動かします。しかしこのP1→P2の間にはモーター効率というものがあります。モーター効率はそのモーターが入力電力(P1)の何パーセントを動力に変換できるかというモーターの仕事の性能を示す大事な数値です。概算ですがモーター効率80~90%というのが指標になります。ではこのモーターでロスした10~20%のエネルギーはどこに行ってしまったのかと言うとLmという熱損失として大気に放出されています。

 

 

②P(モーター軸動力)→γQH(ポンプの仕事量)

入力電力(W)x モーター効率(80~90%)でポンプヘッドのシャフトに入ってくる電力はポンプの軸動力P(軸動力)となり、本来のポンプの仕事量であるγQH(γ定数 x Q流量 x H圧力) となって吐き出し口から送られます。しかしここでも軸動力であるP(W)のすべてがポンプの仕事量に変換されるわけではありません。ポンプ効率はカスケードポンプタイプから渦巻きポンプタイプのようなタイプによって値が異なるためにここでは一概に述べませんがP(モーター軸動力)→γQH(ポンプの仕事量)の仮定でその多くは熱として損失(Lp)されます。特にカスケードタイプの高圧力を出す構造のインペラーを使うポンプは、水を送り出す際の抵抗が大きい構造になるため、熱として損失するエネルギーは渦巻きインペラーよりも大きくなります。より媒体に入熱されやすい構造になっています。

そしてポンプ全体で言えば、モーター効率 x ポンプヘッド効率 = ポンプ全体の効率 となります。このモーター効率の過程、ポンプ効率の過程でそれぞれ熱として損失が生まれ、その一部は循環する媒体への入熱となるのです。

 

マグネットポンプはマグネットカップリングという構造上、モーターからポンプヘッドへの入熱はほとんどないため、ポンプヘッド側の熱損失を媒体への入熱分として考えることになります。

 

 

②VFD駆動型PMモーターポンプ マグネットポンプの場合

 

VFD駆動型PMモーター マグネットポンプの場合

①P0(W:入力電力)→P1(モーター入力電力)

VFD駆動タイプのPMマグネットポンプの場合、VFDの効率が入ってきます。VFD(インバーター)でも熱損失(Lv)は起きるのでその分の入力電力は損失されます。あとの計算は上記の誘導モーター型マグネットポンプと同じです。

 

 

 

③VFD駆動PMモーターキャンドポンプの場合

 

VFD駆動型PMモーター キャンドポンプの場合

 

①P0(W:入力電力)→P1(モーター入力電力)

VFD駆動タイプのPMキャンドマグネットポンプの場合もVFDの効率が入ってきます。VFD(インバーター)でも熱損失(Lv)は起きるのでその分の入力電力は損失されます。ここからの計算は上記のVFD駆動型PMマグネットポンプと少し違います。キャンドポンプはポンプヘッドとモーターの一体構造になっていますので、モーター効率・ポンプヘッド効率という分け方はできず、キャンドポンプ全体の効率として考えます。またキャンドポンプの構造上、マグネットポンプのようにモーター側とヘッド側が分離されていないので放熱分が媒体に入熱されやすい構造になっっています。

 

キャンドモーターポンプとマグネットポンプの違い

キャンドモーターポンプはポンプとモーターが一体化し、使用媒体が密閉される構造になったポンプです。モーターコイルに流れる電流によって回転磁界が生じシャフトが回転します。マグネットポンプよりもコンパクトでシンプルな構造です。

 

ポンプの仕事量と電気の仕事量の関係

ポンプの仕事と電気の仕事は似ています。ポンプは水に対して圧力と流量を与えます。これは電気が電圧と電流を生み出すのと同じです。ポンプには弁によってその流量と圧力を変えれらますが、電気にも抵抗がありここに電流が流れることで仕事をします。共通点の多いポンプと電気ですが、唯一異なる点は弁を通過した後のポンプの流量と、抵抗を通過した後の電流の値です。ポンプの弁を通過した後の流量と通過前の流量は同じですが、電気の抵抗を通過した後の電流値と通過前の電流値は、通過後の方が小さくなります。

 

 

 

 

媒体ごとに異なる比熱

比熱とはその物質の単位質量を1℃上昇させるのに必要な熱量を指します。例えば水の比熱は 4.186[kJ/kg・K]です。これは1kgの水の温度を1℃上昇させるのに4.18kJの熱量が必要という意味です。鉄の比熱は、0.444[kJ/kg・K]で、1kgの鉄の温度を1℃上昇させるのに0.44kJの熱量が必要という意味です。鉄は熱しやすく冷めやすいイメージですよね。つまり比熱が小さい媒体は熱しやすくまた冷めやすい物質で、比熱が高い媒体は熱しにくく、また冷めやすい媒体と言えます。

 

ガルデンやフロリナート(FC3283)の媒体比熱は1.0 kJ/kg・Kあたりで水と比べて比熱が小さいです。どちらかと言えばフッ素系媒体は鉄のように冷めやすく熱しやすい媒体と言えます。この冷めやすく熱しやすいというフッ素系媒体の特徴は冷凍という気化熱(媒体が液体から気体に蒸発するときに周囲の熱を奪う現象)を利用したプロセスにぴったりの特徴です。

 

 

 

気化熱を利用したチラーの仕組み

 

気化熱と呼ばれる液体が気体に変化する際に周囲の熱を奪う現象を利用するのがチラーの特徴です。その際の媒体はフッ素媒体のように比熱は小さく冷めやすい特徴の方が望ましいでしょう。

 

上のチラー構造で凝縮器という部分があります。コンデンサーとも言い、蒸発器(エバポレーター)で気体になった冷媒をコンデンサーで加圧した後に、空気または冷水と熱交換させる事で、気体を液体に凝縮液化させるための機械です。この凝縮という現象の際に気体は周囲に熱を発します。これを凝縮熱と言います。

 

 

凝縮器と蒸発器はそれぞれ下記のような形をしています。

 

凝縮熱を利用したボイラーの仕組み

また気化熱を利用して冷媒液体が熱を奪う冷凍チラーとは反対に、凝縮熱を利用して高温蒸気が液体になる過程で熱を放出し、常温水を温水に変えるボイラーを使った蒸気式温水装置などもあります。

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