NPSHr(必要吸い込みヘッド)

NPSHrはポンプ固有で持つ値です。この値は、”ポンプに最低でもこれだけの吸い込み圧力がないと、ポンプがキャビテーションを起こしたり、騒音や振動を起こしたりします”という指標の値です。配管の形状によっては、ポンプに対して押し込める圧力も限られてきますので(例えばタンクの位置をどこまでも高く設置できるわけではない)、このNPSHrの値は小さければ小さいほど優れたポンプという事になります。

NPSHrは、ポンプの流量が大きくなるほど、またポンプの回転数が高くなるほど大きくなります。(NPSHrはポンプ回転数の2乗に比例して大きくなります。)ですので、ポンプの最大能力で運転したいと思い、最高回転数でバルブ全開のような運転をしますとNPSHrは大きくなり、キャビテーションを起こしやすくなり、結果的にポンプのパフォーマンスが発揮されません。NPSHrを考慮した余裕のあるポンプ選定が大事になってきます。

吸い込みタンクがポンプよりも下にある吸い込みの場合

①ポンプよりも10.3m下にある水面から水を吸引し、キャビテーションがぎりぎり起こらないポンプがあったとします。(11m下ではキャビテーションになる。)この時のポンプのNPSH3は0mです。こんなポンプはほぼ存在しませんが0mの押し込み圧(NPSHA)でもポンプは問題なく稼動できます。

NPSHA=大気圧10.3m – 10.3m(タンク水面までの高さ)=0m

 

②ではポンプが5m下にある水面から水を吸引し、キャビテーションがぎりぎり起こらないポンプではどうでしょうか(6m下の吸い込みではキャビテーションになる。)この時のポンプのNPSH3は5.3mです。最低でも5.3mの押し込み圧(NPSHA)がないとポンプが正常に動きません。

NPSHA=大気圧10.3m – 5m(タンク水面までの高さ)=5.3m

 

③最後にポンプが0m下にある水面から水を吸引、つまりポンプとタンク水面が同じ場所から水を吸引し、キャビテーションがぎりぎり起こらないポンプではどうでしょうか(50cm下の吸い込みですらキャビテーションになる。)この時のポンプのNPSH3は10.3mです。最低でも10.3mの押し込み圧(NPSHA)がないとポンプが正常に動きません。

NPSHA=大気圧10.3m – 0m(タンク水面までの高さ)=10.3m

 

皆さんならば次の①②③のうちどのポンプを使いたいと思うでしょうか?

①10.3m下の水面から水を吸い込んでも問題なく動くポンプ

②5.3m下の水面からならば水を吸い込んでも問題なく動くポンプ

③0m下の水面(ポンプと同じ高さ)で吸い込む場合のみ問題なく動くポンプ

当然①のポンプですよね。

つまりNPSHRが低いという事はポンプが押し込み圧的にタフな状況で使われても問題なく稼動できるポンプという事なのです。

言い換えれば、低い押し込み圧でも問題なく稼動できるポンプと言うのが、優秀な低NPSHRポンプという事です。

 

 

吸い込みタンクがポンプより上にある場合

 

ポンプよりも吸い込むタンクが上にある場合のNPSHRの計算は少し変わります。

ポンプには大気圧10.3mの他にポンプから水面までの高さ◎mも加わるため、ポンプに利用できる押し込み圧は10.3m+◎mという好条件の条件下でのテストになります。

この条件でNPSHRを出す場合は、利用できる押し込み圧である 10.3m+◎m の値を徐々に下げていき、どこの値でポンプの能力が3%下がるかをチェックします。このポンプ能力が3%落ちた状態の押し込み圧がそのポンプのNPSHRになります。

 

 

①タンクが完全密閉の場合の試験方法

タンクが完全密閉の場合はポンプは稼動しながらも、タンク内を真空ポンプで減圧していきます。

例えばポンプから水面までの高さが1mのテスト装置の場合、押し込み圧は10.3m + 1m=11.3m になっています。

この状態で真空ポンプが徐々にタンク内の空気を吸い込み減圧させ、ちょうど圧力5m(0.05MPa)分吸い込んだ時に、ポンプ能力が3%落ちたとします。

この時の値、11.3m – 5m = 6.3m がこのポンプのNPSHRとなります。

つまり6.3m以上の押し込み圧がなければ正常に稼働できないポンプという事です。

 

 

②タンクが大気開放の場合の試験方法

タンクが大気開放の場合は上記のような真空ポンプで減圧するという方法は取れませんので、ポンプ前にバルブ弁を取り付け圧力を落とします。バルブを閉め続け、ポンプ能力が3%落ちた時がそのポンプのNPSHRです。

ポンプ吸い込み側の圧力は大気圧+高さ1mで計11.3m(0.113MPa)、ゲージ圧で0.01MPa(+1m)を指しています。

この状態でバルブを徐々に絞めていき、圧力を落としていきます。

そしてゲージ圧0.005MPa(0.5m)でポンプ能力が3%落ちたとします。つまり0.005MPa(0.5m分)バルブで圧力を落としたのです。

この時のNPSHRは 11.3m – 0.5m = 10.8m になります。

ポンプを正常に運転するために最低10.8mの押し込み圧が必要なポンプという事です。

 

同じようにバルブ弁をどんどん絞っていきゲージ圧が0MPaの状態で3%能力が落ちた場合は、ゲージ圧0MPa(つまり大気圧10.3mのみ)なので、つまり0.01MPa(高さ1m)分の圧力がバルブ弁により失われたことになります。

この時のNPSHRは 11.3m – 1m =10.3m です。

ポンプを正常に運転するために最低10.3mの押し込み圧が必要なポンプという事です。

 

実験例

ここにポンプの吸い込み口前に接続された圧力計があります。

針は0.006MPa≒0.6mを指しています。

この圧力はゲージ圧、つまり大気圧=0MPaを表す圧力計ですので、大気圧よりも0.6m分だけ正圧になっているという状態です。

言い換えれば、ポンプに押し込まれる水面の高さが、ポンプよりも0.6m(60cm)分だけ上にある状態の装置と言えます。

ポンプにとってはこの押し込み圧というのが非常に重要な要素となっており、この押し込み圧の0.006MPaが徐々に0MPa、そして負圧の-0.005MPaと減っていく事で、ポンプへの押し込み圧が弱まり、ポンプのキャビテーションの状態へと近づいてきます。

ポンプのNPSHR試験とは、どれだけポンプの吸い込み圧を減らしていけば(言い換えれば、ポンプをどれだけいじめていけば)、ポンプの性能が落ちるか(キャビテーションを起こすか)を見ていく試験です。

これを見ていくには3つの方法があり

①タンク内を真空引きにする(大気圧0.1MPaの圧力をなくしタンク内を真空にする)

②ポンプと水面の高さをなくす(押し込み圧を物理的に減らす)

③吸い込み弁を絞って、吸い込み圧を減らす  ←今回はこれで見ていきます

 

吸い込みバルブを絞っていきますと、最初の0.006MPaが0MPaになり、そして負圧の-0.005MPaになっていきます。負圧に入ったということは、ポンプの吸い込み圧が大気圧よりも低い圧力になっているという事です。

 

①吸い込み圧ゲージが0MPaで性能が落ちる場合

では吸い込みゲージ圧が0MPa(つまり大気圧下)でポンプ性能が落ちてしまう場合はどうでしょうか。

これはポンプのNPSHR(有効吸い込み圧)が最低10.3m(大気圧)必要なポンプという事ですので、あまり優秀なポンプとは言えません。

言い換えれば少しポンプをいじめただけで、性能が発揮できなくなってしまうポンプという事です。

②吸い込み圧ゲージが0.05MPaで性能が落ちる場合

吸い込みゲージ圧が0.05MPaでポンプ性能が落ちてしまう場合はどうでしょうか。これはポンプのNPSHR(有効吸い込み圧)が 5.3m(大気圧10.3m-5m)必要なポンプという事です。このあたりになりますと一般的なポンプのNPSHRに近づいてきます。

 

 

③吸い込み圧ゲージが0.1MPaで性能が落ちる場合

ほぼあり得ないケースですが、吸い込みゲージ圧が0.1MPaでポンプ性能が落ちてしまう場合はどうでしょうか。

これはポンプのNPSHR(有効吸い込み圧)が 0m(大気圧10.3m-10.3m)でも性能が落ちない理想のポンプという事になります。

言い換えれば、ポンプから10.3m下の位置にある水面下から水を吸い上げても能力が落ちないスーパーポンプと言えます。

フッ素系媒体(HFE7200・FC3283・Galden)とNPSH

 

冷媒系チラーに媒体として使用される代表的なものとしてHFE7200・FC3283・Galdenなどがあります。これらのフッ素系媒体はそれぞれ特徴がある媒体であり、例えばその1つに媒体密度が高い(FC3283=1.8 g/cm3   20℃時)があり、あまり高回転でポンプを回し過ぎると、モーター過負荷になる恐れがあるので注意が必要です。

もう1つフッ素系媒体で注意が必要になってくるのは飽和蒸気圧です。

20℃時のそれぞれの飽和蒸気圧

水  0.0025MPa=0.25m

FC3283   0.0013MPa=0.13m

HFE7200    0.016MPa=1.6m

 HFE7200の飽和蒸気圧が少し高くなっています。

 

40℃時のそれぞれの飽和蒸気圧

水  0.01MPa=1m

FC3283   0.00316MPa=0.31m

HFE7200    0.027MPa=2.7m

40℃あたりまで媒体が温まるとそれぞれの蒸気圧が無視できないほど高くなります。キャビテーションを抑えるために装置としての押し込み圧も考える必要があります。

飽和蒸気圧とNPSHR

 

ポンプのNPSHRを考える際に忘れてはいけない指標が媒体の飽和蒸気圧です。何故ならNPSHRとはポンプがキャビテーション(沸騰)を起こさずに問題なく稼動できるための最低限必要な押し込み圧と言えるので、液体そのものの飽和蒸気圧すなわちその液体が何℃のときに気体になり沸騰してしまうかを見るのは重要なのです。

 

 

地上で私たちは大気圧から0,1MPaの圧力を受けながら暮らしています。ですので40℃くらいの水であるならば上の飽和蒸気圧曲線でも分かるように水は沸騰せずに液体のままでいられます。

しかし徐々に水の温度が上がり100℃まで到達してしまうと水から発せられる蒸気圧0,1MPa(=10m)と大気圧の0.1MPaが均衡してしまい沸騰が始まります。更に温度が上がり150℃ともなれば水から発せられる蒸気圧は0.5MPaにもなり、完全に大気圧の0.1MPaを押しのけて沸騰し蒸気になります。

■水150℃は地上では水蒸気になる

水 150℃時 の 蒸気圧 0.5MPa   >>>>>  地上での大気圧 0.1MPa

 

逆を言えば、150℃の水に0.5MPaの圧力を掛けてあげれば、水の蒸気圧0.5MPaと均衡するので、水の状態にいられます。

ここから媒体を水(液体)の状態に留めておくには、温度を下げるか(冷やすか)、圧力を加圧するかの方法になります。

水蒸気(気体)の状態に留めておくには、温度を上げるか(温めるか)、圧力を下げるかになります。

 

液化CO2用ポンプ

現在、冷媒チラーにおいてGWP係数(地球温暖化係数)が重要なトピックになっています。よりGWP係数が小さい冷媒を採用する流れに業界が向かっていますが特に冷媒として液化CO2(GWP係数=1.0)が注目を浴びています。

これはCO2の飽和蒸気圧曲線ですが、水の飽和蒸気圧曲線と随分と違います。ポンプで輸送するには当然、液体の状態にしなければならないのですが、CO2は常温・1.0MPaの大気圧下では水のように液体で存在できず、気体(ガス)の状態になってしまいます。

 

このCO2を大気圧下の1.0MPaで液化するには、―40℃までこのCO2を冷やすか、常温のまま例えば31℃の状態で7.38MPa以上の圧力をCO2に掛けるかです。

このようなCO2ポンプの特徴としては、使用温度帯が-80℃の低温帯まで使用可能なこと。

また液化するにはその低温帯で1.0MPa以上の圧力を出せるポンプという特徴になりそうです。

またポンプ循環中にちょっとした液化CO2の温度上昇で、蒸気圧の曲線上(液体→気体への移動)になるためキャビテーションが起こりやすい状況にあります。ですので極力、NPSHRが低いポンプが条件になるでしょう。NPSHRが高いポンプになってしまうとよほどの高い押し込み圧がなければすぐにキャビテーションを起こしてしまいます。

 

 

 
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