バルブ制御が要らないPM同期モーターポンプという回転数制御
スペックポンプにはPM同期モーターポンプというVFD駆動タイプのポンプがあります。
回転数1000~4000回転に自由に変える事で幅広い能力をカバーできる省エネに適したポンプです。
幅広い回転数で運転できるという事はバルブによる制御が要らなくなるという事でもあります。これまでのバルブによる圧力損失が、PMポンプの場合には起きなくなるのです。
バルブによるエネルギーロスが起きず、PMポンプの消費電力は常に必要最小に留めておくことが可能になります。
下記の曲線はPMポンプの1000~4000回転の曲線を示しています。黄緑色のシステム抵抗曲線との交点は、最大能力になる4000回転時には青い点になり、もう少し流量を落としたい場合はバルブを絞る代わりに3000回転まで落とした赤い点にします。
この時、バルブによる圧力損失は起きていません。
誘導モーターとPMモーターポンプの違い
誘導モーター・マグネットポンプ | PMモーターポンプ | |
使用温度帯 | マイナス100℃から+350℃まで | マイナス100℃から+350℃まで |
※低温ではフッ素系媒体100℃まで使用可能 | ※低温ではフッ素系媒体100℃まで使用可能 | |
使用電源 | 商用電源(AC200V)でモーターを回せる | インバーターでモーターを可変回転させる。 |
※インバーター使用も可能(45~67Hz) | (省エネになるためIE規格外に→モーター高効率規制に有利) | |
商用電源だけでは回せずに、 | ||
インバーターを使用して回すタイプ。 | ||
サイズ | 通常(スペック社は他社よりもコンパクトと評価されています) | 誘導モーターよりも更にコンパクト・キャンドは最小サイズ |
規格 | CE規格 UL規格 GB規格 安全増ATEX など取得可能 | CE規格 UL規格 GB規格 安全増ATEX など取得可能 |
※インバーターもCE・UL規格取得済み | ||
モーター規格 | IE3(2020年12月現在) | ※PMモーターはIE規格外(モーター効率はIE4以上) |
→モーター高効率がIE4に上がった際に変更の手間がない | ||
モーター過負荷 | バルブを締め切り過ぎた場合に | ※スペックPMモータでは、インバータにて条件を設定することにより、モータ定格電流値を超えようとすると自動的にモータを減速させ、モータ過負荷は起こりません。 |
定格電流値を超えるモーター過負荷は起こり得る。 | ||
能力(流量・圧力) | システム抵抗値により1点に決まる | インバーターの可変により最高4000回転(※ポンプにより変わる)まで様々な能力を選択できる |
能力の調整 | 吐き出しバルブの開閉で調整 | インバーターによるモーター回転数変更で調整 |
PM同期モーターポンプカタログ(日本語)
- トップランナー制度の規制対象外
- よりコンパクト・長寿命・省エネ化を実現
- 1台で広範囲な稼働点を選択可
スペックPM同期モーターポンプの構成
①PM同期モーターが トップランナー制度の規制対象外の理由
PM同期モーターはインバーターで可変運転する同期モーターのため、誘導モーターに関するトップランナー制度の規制対象外になります。(※50~200Hz - 1000~4000回転:スペック社PMモーター)また実質的なモーター効率も国内トップランナー規制および海外高効率規制の効率IE3レベルを超えています。
※インバーター駆動専用の誘導モーターでも、 商用電源で運転可能の場合はトップランナーの対象になります。
PMモーターはモーター高効率規制(トップランナー制度)の対象外です。
将来の高効率規制動向にともなう設計変更、変更申請などの作業緩和につながります。
②モーター効率化による周辺機器の変更も省略
PM同期モーターはIEクラスのトップランナーモーターのように、始動時における過大な始動電流・突入電流を発生させません。よって周辺機器の変更などの手間を省略する事ができます。
③誘導モーターよりコンパクト・長寿命化・省エネ設計
通常の誘導モーターを使用するマグネットポンプよりも、PM同期モーターポンプはコンパクト設計になります。他社メーカーと比べてもコンパクト設計と言われるスペック・マグネットポンプがよりコンパクトサイズになったのがPM同期モーターポンプです。
1,1kw PM同期ポンプのサイズ例
④二次銅損が生まれないPM同期モーター
下記のPM同期モーターの仕組みにもあるように、誘導電流ではなく磁力で回転するPM同期モーターには二次銅損が生まれないため、より長期の寿命を持ちます。
⑤従来の三相誘導電動機の仕組み
三相交流電源から動力を得て電磁誘導により固定子から回転子へ電力を送る事で回転します。
電気エネルギーから機械エネルギーに変換する際に、一部が熱エネルギーとして消費されてしまうためこの損失分がモーター効率の低下となって現れます。
⑥PM同期モーターの仕組み
固定子に交流を流してそれによって生まれる回転磁界と回転子(永久磁石)が引き合い同じ速度で回る電動機がPM同期モーターです。
PM同期モーターでは誘導電動機にあった回転子の導体部分を省略しているので誘導電動機にある2次銅損が生まれません。無駄な損失が生まれないので、高い効率を得られます。
誘導モーター(IM)は固定子巻き線に電流を流すと固定子内にN極とS極の回転磁界が発生します。
回転磁界と回転子導体が交わると、導体に二次電流が発生し二次電流と回転磁界の力の作用により回転子に力が加わり回転します。
PM同期モーター(永久磁石モータ)は 固定子巻線に電流を加えると、固定子内に回転磁界が発生します。
回転磁界の動きに永久磁石が吸い寄せられ回転子も回転磁界と同じ速度で同期回転します。
二次電流を発生させずに永久磁石と回転磁界の力でモーターを回転させるので、モーター熱が従来
より下がります。 それによりシャフトへの負荷も下がりポンプの高寿命化を実現しています。
PMモーターは1台で広範囲な稼働点を選択できる
専用インバーター 世界的シェアのダンフォスVacon20
スペックPMポンプは世界的シェアを誇るダンフォスグループの Vacon20インバーターを使用しています。
自由にパラメーターをパソコン上専用ソフトVaocn Live上で 設定・変更する事ができます。
ポンプ性能曲線の読み方
ポンプの性能曲線には、流量と圧力の2つが示されています。詳細なデータでは、その際の軸動力(モーター消費電力)・NPSHR必要吸込みヘッド・ポンプ効率なども記されています。
この性能曲線はあくまでポンプ単体が行う仕事を示しています。ポンプの先にあるバルブ弁によって失われる圧力などは含まれていません。ポンプが作り出す圧力、ポンプが送り出す流量がこの性能曲線には記されています。
ただしこの性能曲線だけではポンプの稼働点は決まりません。ポンプの稼働点(圧力・流量)を決めるのは、ポンプの先にあるシステムが持つ抵抗値です。システム抵抗値の曲線との交点により、ポンプの稼働点が1点に決まります。
システム内のバルブを閉めることによりシステム抵抗値が上がれば、その曲線は左に寄ります。
すると、ポンプの稼働点は流量が下がり、圧力が高くなる交点に移動します。
反対にバルブを開放すれば、システム曲線は右に寄り、流量が上がり圧力は下がる交点に移動します。
ポンプの稼働点を決めるのはポンプ自身ではありません。ポンプは常に与えられた回転数で100%で仕事を行うだけです。そのポンプの先のシステム抵抗が、ポンプの稼働点を決定しています。
ポンプ流量・電流値とシステム抵抗値の関係
ここではスペックポンプ主力製品のカスケードインペラータイプのポンプを元に説明します。
カスケードタイプのポンプは渦巻型インペラーのポンプとは異なり、流量を上げるほど(バルブを開けるほど)に電流値は下がっていきます。反対にバルブやシステム抵抗値の上昇により流量が絞られるほどに電流値は上がっていきます。
先程も説明しましたが、ポンプのパフォーマンスはポンプ自身が決めるのではなくポンプが組み込まれているシステム回路全体の抵抗値によって決められます。
例えば上の図では、バルブや熱交換器を通る配管などがポンプが流そうとする仕事に対しての抵抗になります。バルブや熱交換器などの数が増えるほどに回路全体のシステム抵抗値は上がりますので、その分だけポンプは十分な圧力を持って媒体を送り出さなければ十分な流量を熱交換器などに送りこむことができません。
例えば上のグラフにある黄緑色の曲線が回路のシステム抵抗値を示します。
この曲線とポンプの性能曲線である赤い直線(流量と圧力)が交差する点がポンプの稼動点に決まります。ここでは黄色い点の【42 l/m at 22m】というのが稼動点です。そしてその時の電流値は青い直線との交点である【5.3A】付近になります。
そしてシステム抵抗値が増す、つまりバルブや熱交換器が増えたり、配管が細いものになったりL字型エルボが増えたりすると、回路全体のシステム抵抗値は増します。下の図のように黄緑色のシステム抵抗値の曲線は左側へ傾きの強い曲線に変わります。
システム抵抗値が増す要因
・バルブや熱交換器などの流量の抵抗になるものが増える
・配管が細くなる
・L字型のパイプ部分が増える
何らかの要因でシステム抵抗値が増すと上の図のように曲線は傾きの強い左側に寄ったものに変わります。
ここで注目したいのがポンプの出す流量とその時の電流値の関係です。回路の抵抗が増えたので当然ポンプが媒体を流しにくい状況になっています。
具体的に数値で見るとシステム抵抗曲線と赤いポンプ性能曲線が交わる黄色い点がポンプの稼動点になり、【25l/m at 30m】になります。先程と同じ回転数のポンプであるにも関わらず、【42 l/m at 22m】→【25l/m at 30m】へと流量は減りました。(圧力は抵抗が増えたぶん上がっています。) その時の電流値は【5.6A】です。システム抵抗が上がる前は5.3Aでしたので、電流値もシステム抵抗値の上昇と共に上がっています。
つまり、回路全体がポンプにとって媒体を流しにくい状態に変わったのでポンプが出す流量は減り、またその時の電流値は上がったのです。
実際の現場ではシステム回路に流量計のみを取り付ける場合が多いですが(圧力計は付けないケース)、流量とその時の電流値のデータを取る事ができれば、そこから大体のポンプが出す圧力を求める事が可能です。
流量計も圧力計も取り付けていないというケースではあまり正確ではありませんが、ポンプの性能曲線と稼動中のポンプの電流値を取る事ができればその時の大体のポンプの稼動点(流量と圧力)を性能曲線から予測することもできます。
電流値が定格ギリギリの値になっているとするならば、システム抵抗値とポンプ性能曲線の交点がかなり左側に寄っているという事ですので、流量はかなり絞られていると考えられます。またポンプの仕事量がかなり大きい状態とも言えます。システムの抵抗値がかなり大きい状態です。
反対にその時の電流値が低い状態を示しているならば、交点は右側に寄っているという事ですので、流量は十分に出ていると考えられます。ポンプの仕事量は適正と言えるでしょう。システム抵抗値も小さい状態です。
しかしケースによっては電流値だけを見て判断を誤ってしまう事もあります。例えばポンプ内に異物が挟まっている場合、モーターへの負荷は高くなり電流値はかなり上がっているでしょう。これはシステム抵抗値が大きいのではなくポンプ自体に問題がある状態です。
反対に電流値が極端に低い場合にポンプの流量はかなり出ていると考えたいですが、空運転というインペラ部に流体がない状態、流体に空気が混じっている状態では電流値は低い状態になります。この状態のときには流量は出ていませんので電流値だけで判断することができません。
ここではあくまでカスケードタイプでのインペラーの説明です。渦巻型インペラーの場合は消費電力の動きが反対になりますので注意してください。
カスケードインペラー(圧力型):流量が絞られるほどに消費電力(電流値)は上がっていく。そのためスタート時はバルブ全開にして消費電力を抑えてスタートさせる。
渦巻きインペラー(流量型):流量が出る程に消費電力(電流値)は上がっていく。そのためスタート時はバルブを絞る閉塞運転で消費電力を抑えてスタートさせる。
なぜこのような違いが起きるのかと言うと、カスケードインペラータイプはその構造上、密閉された圧力がどんどん上がるような構造になっています。反対に渦巻型インペラーはケーシング内は開通しており圧力よりも流量が多く出るための構造になっています。
ポンプ吐き出し口とバルブによる圧損の見方
ポンプの性能曲線はあくまでポンプ吐き出し口における能力を示しています。
ポンプ吐き出し口の能力とはそのポンプが生み出す差圧と送り出している流量の事です。
従来のポンプの能力制御はポンプ吐き出し口の後に付けるバルブ開閉による調整が主流でした。
しかしバルブを通過する際にポンプから送り出される圧力は損失しています。これは性能曲線の見方についても同じで、システム抵抗曲線とポンプ性能曲線との交点はあくまでポンプ吐き出し口の能力になります。実際の回路ではバルブ通過後の流量や圧力が重要になってきますので、下図の性能曲線の青い交点つまりポンプ吐き出し口の能力だけを見ても不十分になります。
下記の性能曲線で見るとバルブ通過後の圧力は赤い点になります。
バルブで流量を絞るとここまで液体に与えられる圧力は落ちるのです。
このバルブによる失われた圧力損失分が無駄に消費されてしまったエネルギー分と言えます。
この無駄に消費されたエネルギーはそのままポンプ消費電力の浪費となります。
PM同期モーターポンプのサイズは以下に分かれます
- AY-2241-PM : max 20 (l/m) max 160 (m)
- AY-2251-PM/SR : max 45 (l/m) max 100 (m)
- CY-4281-PM/SR : max 75(l/m) max 110(m)
- CY-6091-PM : max 200(l/m) max 100(m)
- MY4-PM : max 120(l/m) max 35(m)
- ACY-4599-PM : max 70(l/m) max 160(m)
その上の大流量用途については